巡視艇の船長をしていたころ、漁船の火災があって、その消火に行ったときのお話です。
あなたの心に🔥を付ける勇気づけの専門家 ウミザル式自己肯定力育成コーチのメタルです。
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火災船の消火のため、現場に向かったところ、まだ漁船(長さ約10メートル)の火勢は衰えず、船体から炎を吹げ激しく燃えていました。
長さ10メートルの船といってもピンと来ないかもしれませんが、大型(10t)トラックと同じぐらいだと思ってもらって良いでしょう。
船は、海に浮いていると小さく見えますが、陸上のものに比べると案外大きいです。
大型タンカーやコンテナ船になると、長さ約200メートルのものも珍しくありません。
中には、原油タンカーやコンテナ船では長さ300メートルの船もあります。
300メートルというと、ちょうど大阪のあべのハルカスの高さと同じ。
単純に比較はできないでしょうが、あべのハルカスが横になって、海に浮かんで移動しているイメージしてください。
どれほど、巨大なものが海上を移動し、物資を輸送しているかがよく解ると思います。
話がそれましたので、元に戻しますね。
消火開始
写真は鳥羽海上保安部 所属船艇の紹介から拝借
船首にある放水銃で、海水を掛けて消火していたのですが、心の中で「沈まないかな〜」と思っていました。
というのも、もうこれだけ燃えてしまっているので漁船として再び使用するのは困難。
そして、このまま浮いていると洋上を漂って船舶交通の邪魔(航路障害物)になる。
(船がぶつかると危険)
沈んだとしても、水深が深いので交通の邪魔にはならない。
沈まない場合、この燃えた「船を港まで持って帰らなければならない」という新しいオペレーションが待っています。
それを考えると、結構面倒なんですよね。
仕事とはいえ、これが本音でした。
消火するのに約1時間もかからなかったと思います。
やがて火勢は衰え、黒焦げで何とか水に浮かんでいる、いわゆる「水船」の状態でこの漁船は浮いていました。
曳航作業
この船には、船長のわたしの他に、機関長、航海士補1、航海士補2、機関士補と4人が乗り組んで、だいたい、このクラスの巡視艇はこのような乗組員の構成になっています。
わたし「機関長、沈みませんね」
機関長「沈まないね」
わたし「やっぱり、FRP(繊維強化プラスチック)は軽いですね」
航海士補2「どうやって曳航(船を引っ張って行くこと)しますか?構造物(船の上の操舵スタンドなど)は燃えちゃってロープを取るところが無いですよ」
わたし「長いロープで、船体を縛ってそれに曳航ロープを繋げて曳航する。機関長!申し訳ないけど、わたしと一緒にあの船に乗って作業して貰えますか?」
機関長「よっしゃ!」
わたしは操舵(舵輪をもっている)している航海士1へ向かって「おれと機関長が該船(漁船)へ乗り移るから、こちらの準備が終わったら船を近づけてくれ、そのあとは離れて付近を頼む」と指示。
そのような会話をしつつ、わたしと機関長はライフジャケット(救命胴衣)と無線機を持って準備にかかりました。
また、この巡視艇だけでは、人数も少ないし曳航するには手間がかかるので、保安部と調整して同じ保安部所属の巡視艇の協力を要請。
わたしは、機関長と共に漁船に乗り移り、船を引っ張る準備にかかります。
といっても、黒焦げの水船状態ですから、場所によっては水たまりもできています。
どうにか船の形は保っているものの、安定していないので船底(床)がフワフワしてバランスを崩すと海に落ちそうになる。
長いロープを持って2人で慎重に船の上を移動しつつ作業を開始しました。
再発火
しばらくすると機関長が「船長!火が出た!」という声が。
見ると消えたと思っていたのに、船体の1カ所から小さな炎が上がっています。
わたしは無線機で「火が出たバケツ、バケツ」と慌てて離れて見守っている巡視艇へバケツを持ってくるように指示、受け取ったバケツで海水をくんで水を掛けて消火します。
船体がFRP(繊維強化プラスチック)の場合、消えたと思っても熱が籠もり内部で高温状態が続いている場合があります。
外壁が濡れている間は、炎が押さえられているのですが、乾燥すると再び内部の熱が上昇して火が出るのです。
そのまま放っておくと、また船体が燃えかねない危険な状態。
他のFRPが船体の船舶火災でも、再発火したという事例があります。
陸上の火災でも、布団などは水を掛けて表面上は鎮火していても内部の綿が高温状態が続いている場合があって、このように再発火することがあります。
この後も、たまに火が出ましたが、幸い鎮火できました。
シンナー中毒
そんな状態で、約30分作業を続けて何とか曳航準備が終わりかけた頃、機関長がまた「船長!なんかフラフラするよ」と。
そう言われれば、わたしも何だか身体がフワフワする感覚がします。
わたし「機関長、これ軽いシンナー中毒です、早く作業を終わらせましょう」
FRPは、ガラス繊維の布をシンナーなどを含んだプラスチックの溶剤で何枚も重ねて貼り合わせて作られています。
ですから、燃えてプラスチックの溶剤が揮発、船上にシンナーの成分がガス状になって漂っている状態だと推測できました。
こんなことならガスマスクを持ってくればよかった。
と思っても後の祭り。
何とか作業を終わらせた頃に、幸い応援に来てくれた巡視艇が来てくれました。
曳航ロープを投げてもらって、わたし達が船体に取り付けたロープに結び曳航準備が終了、その巡視艇に曳航をお願いしました。
ミッション終了
わたしと機関長は船に戻り。
機関長「何とか無事に終わったね」
わたし「船酔いはしても、まさかシンナー酔いするとは思いませんでしたね」
などと喜び合いました。
翌日、港に陸揚げされた漁船を消防、乗っていた漁師さんと実況見分(調査)したところ、バッテリー付近が激しく燃えていることから、漏電と判明しました。
学んだこと
いま振り返って考えると、人の心とこの消火活動と一緒だなって気づきました。
今「え?」ってはてなマークが頭の中いっぱいですか?
これまでの自分の感情や気持ちを無理矢理抑えて、人に自分の気持ちを伝えないとドンドン自分の中に溜まっていきます。
でも、感情はエネルギーなんですよね。
だから消えることがない。
今回の火災のように一見消えているように見えても、中でくすぶっている場合が多々あるように思います。
また、知らず知らずのうちにシンナー中毒になってしまうように、気づかないうちに心が麻痺してしまう。
負の感情、つまり怒ったり悲しんだりする感情を出さないようにしていると、喜びの感情まででなくなるんですよね。
わたしが素敵だなって思う人は、例外なく自分の感情に正直です。
子どもって可愛いですよね。
子どもは、悲しいときは大声で泣き、笑うときは思いっきり笑う。
大人になったって、人間ですからそれで良いんじゃないでしょうか?
何かを成し遂げた人は素晴らしいと思いますし、ガンガン稼ぐ人は魅力的です。
でもね、わたしは、自分の感情に素直に表現する。
そういう人を好きになります。
参考までに
Written by ウミザル式自己肯定力育成コーチ メタル
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