海上保安庁に勤めたころ、火災船の消火に何度か出動したことがあります。
あなたの心に🔥を付ける勇気づけの専門家 ウミザル式自己肯定力育成コーチのメタルです。
これから冬場に向けて、火災が発生しやすくなる季節。
今回は、現役時代に遭遇した船舶火災のお話です。
船舶火災の消火
消火の3原則ってご存じですか?
物がなぜ燃えるのか?を考えると解りやすいです。
物が燃えるには、
- 燃えるもの
- 酸素
- 熱源
が必要です。
この3つのうち1つでも無いと物は燃えません。
ですから、消火する場合は、このどれかを除去します。
1の燃える物を取り除くのは、消防ポンプなどが無かった江戸時代などの主な消火法。
燃えている家などを壊していきます。
現代でも、崩れやすい木が燃えている場合は、水の圧力で破壊していくこともあります。
キャンプファイヤーなどで、積み上げていた木を崩すのもこの手法での消火方法です。
2の酸素を断つ方法。
一般の貨物船などは、鉄でできているので、あまり水をかけすぎると水の重みで船が沈んでしまいます。
そこで、水量を少なくできる噴霧消火といわれる手法を使います。
水を霧状にして掛けることで、火災源の熱によって霧が即座に蒸発し、水蒸気となって燃えている物周辺の酸素を追い出す窒息効果をもたらします。
また、水による温度を下げる効果も見込めるので船舶火災では主流となる消火方法。
エンジンルーム火災など閉鎖できる場所が燃えている場合、新鮮な空気を入れないように人が脱出した後で扉を全部締めてしまう密閉消火もよくやる手法です。
3の熱源を取り除くとは、燃えている場所の温度をさげること。
燃える物によって温度が違いますが、燃えている周囲の温度を下げてやれば燃えるのが難しくなります。
ですから、火元に直接水を掛けられない場合、船の外壁に水を掛ける船体冷却をやります。
船を沈めるな
前述のとおり、水を掛けすぎると船自体が沈んでしまいます。
「船が沈めば火事は消えるのでいいんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、時と場合によります。
港の中のように浅いところで沈んでしまうと、船の通行の邪魔になるので後から引き上げなければなりません。
また、港内じゃなくても、沈んだ船をそのままにするのは船を捨てることにもなるので、引き上げられる水深であれば引き上げるのが基本です。
火災船発生情報
平成10年頃のある日の午前中、沖で漁船が燃えているとの情報がありました。
当時、わたしが船長をしていた巡視艇で(5人乗り)で出動、消火に向かいました。
その日は、晴れたとっても良い日だったのを覚えています。
風は強いものの、天候は晴れ。
幸い海は平穏でした。
現場までは、約1時間の距離。
途中、次々に入ってくる無線などで入ってくる情報によると、長さは約10メートル、乗り組んでいた漁師さんは僚船(仲間の船)に救助されて無事だとのことでした。
人は助かっているので、あとは船体救助です。
ホッとすると共に、頭の中では燃えている船の消火手順について考え始めていました。
しばらくすると遠くからも、黒い煙と赤い炎を吹き出しながら、激しく船が燃えているのが確認できました。
周りには、同じ漁協の漁師さんの船でしょうか、数隻の漁船が見守るように洋上に漂っていました。
船外スピーカーで、今から消火を始めるということと、危険なので火災船から離れるように呼びかけて、船に近づきます。
依然として、FRP(繊維強化プラスチック)の船体が激しい勢いで燃えていました。
無線で保安部へ状況を報告すると共に、船首(前方)にある放水銃で、消火する準備を始めました。
このタイプの巡視艇は、片方のエンジンを水中ポンプを回すために使うので、消火中は操縦性能が悪くなります。
それでも何とか火災船の風上にいせかぜの船体を船位させ、放水銃を斜め上に揚げ、水が霧状になって船体へかかるよう放水を始めました。
前述のとおり、船を沈めないのが基本なんですが、この時わたしはぶっちゃけ「沈まないかな〜」と思いながら放水していました。
後半へ続く。
Written by ウミザル式自己肯定力育成コーチ メタル
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