海上保安庁で海猿(潜水士)の新人だったころ、こんな失敗をしたことがあります。
その日は、巡視船の※搭載艇を降ろして、伊勢湾の真ん中、水深約30メートル付近でアンカー(錨)を打って潜水訓練をしていました。
※巡視船に積んでいる小型ボート、訓練時などに降下させる。
まだ、潜水士になって1年経つか経たないかの新人でした。
その潜水訓練で私は、絶対にやってはいけないことをしてしまいました。
手から索(ロープ)が離れる
潜水(スキューバダイビング)というと綺麗な海で魚と戯れるイメージかもしれませんが、潜水士の潜るのは普通の海。
潜水士の仕事は、海面か海底かです。
海面で溺れている人を救助したり、転覆して浮いている船の中へ入って捜索したり。
または、海底に沈んだ船の中を捜索したり、海底に沈んでいる行方不明者を捜索したりがほとんど。
なので、一般的なスキューバダイビングのように中空に浮かぶことは、ほとんどありません。
今回は、そんな海底で捜索訓練をしていた時のことです。
海底で捜索するときは、索付き潜水といって細い直径5ミリくらいのロープを重りに付けて海底に落とし、迷子にならないようにみんながそのロープに掴まって捜索します。
水中視界が悪いのと、そのロープを引っ張って信号を送り指示を出し、仲間と通信します。
そんな捜索中にふと気が付くと、手にロープを持っていませんでした。
海底は、フィン(足ひれ)の影響で泥を巻いていた(海底の泥が舞い上がっている状態)ので水中視界はほとんどゼロ。
自分の手の指先も見えません。
水深30メートルの海底で完全に迷子になってしまいました。
緊急浮上?
こういう場合、一番の安全策は海面へ上がること。
しかし、水深30メートルからゆっくり浮上すると、途中潮の流れで流され、海面に浮上した頃は母船から遙か彼方で、見つけて貰えないと漂流しなければなりません。
潜水用のタンクとウエイト(重り)を捨てて、緊急浮上することもできましたが、その場合急浮上するため、いわゆる潜水病(減圧症)も心配です。
なので、あまりやりたくありません。
どうしようか、迷っている間にもタンク内のエアー(空気)を消費します。
あまり猶予はありませんでした。
しかし、気を取り直し、自分を落ち着かせて、周りの音に集中しました。
つまり、仲間が空気を吐く呼吸音を探したのです。
だけど、海底では、音の速さが空気中より速く伝搬するために、音が四方八方から聞こえ、ハッキリと音のする方向を見定めることが難しいのです。
そして、呼吸音はそう大きい音ではないので、耳を澄ませても距離が離れると聞こえない場合が多く、ドキドキしている自分の呼吸音や心臓音も邪魔になります。
一か八か
諦めずに耳を澄ませていると、かすかに呼吸音が聞こえました。
泥を巻いている海底から少し浮かび上がるために、呼吸音のする斜め上方へ移動するためにフィンキック。
そうすると、まるで雲の中を飛んでいた飛行機が、雲の上に出たように水中視界が開けました。
そして、その雲(泥が巻いている塊)のなかから上がってくるエアー(空気)が見えたのです。
もう必死でそのエアーの湧き上がってくる方向へ降りて行き、無事に仲間と合流することができました。
教訓
何がいいたいかというと、常識に囚われずに諦めなければ、絶対に解決策があるということ。
それと、自分の位置を変える。
つまり、視点を変えれば解決策がみつかるということです。
常識に囚われない
スキューバダイビングの講習では、前述のとおり音の方向が解りにくいと教えられます。
しかし、解りにくいだけで全く解らないというわけじゃない。
今回も、最初から水中では音の方向が解りづらいからといって、諦めていたらこの方法は思い付きませんでした。
常識に囚われずに、可能性が少しでもあれば試してみることです。
視点を変える
同じ場所、ずっと泥を巻いた海底で留まっていたら、仲間を見つけることは困難だったでしょう。
見つからなかったかもしれません。
思い切って行動したからこそ、水中視界が開けて仲間が見つかったのです。
自分の行動や考え方を変えることで思わぬ解決策が見つかるものです。
いつもの自分の思考パターンを変えてみると、思わぬ発見があるでしょう。
視点を変えることで、道は開けます。
仲間は案外近くにいる
泥を巻いた海底では、仲間を見つけることはできませんでしたが、見えないだけでとっても近くにいるのです。
あなたが気が付かないだけで、あなたを応援してくれている人、理解してくれる人は近くにいます。
今まで生きてきた間にあなたに親切にしてくれたり、気にかけたりしてくれた人が必ずいるはずなんです。
あなたは、独りじゃないんです。
ただ、見えないだけ。
あなたが、視点を変えれば必ず見つかります。
まとめ
何だか、熱く語ってしまいましたが、諦めずに行動していれば、必ず誰かが助けてくれます。
あなたが気が付かないだけで、あなたを応援してくれている人は必ずいるのです。
なにより、自分で自分をしっかりと応援してあげてください。
Written by メタル(@Metal_mac)
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